第30章 背信ペットの処遇について〔幸村精市〕
図書室を出て階段を降りようとしたとき、聞こえてしまったのだ。
「私、ずっと好きだったの」と言った女の子の声が。
そのあとすぐに「…幸村くんのこと」と続けた、泣きそうに震えた声が。
手すりから少し身を乗り出して下の階を覗き込むと、二人の横顔が見えた。
知らない女の子と、幸村。
人違いであってほしいという甘すぎる願いは、即座に切り捨てられる。
他人の告白を覗き見るなんて下世話な趣味はないはずなのだけれど、相手が幸村だとわかると気になってしまって。
不思議な姿勢をキープして、動向を見守る。
「ありがとう。でも…ごめんね、今は…今はもっと大切にしたいものがあるんだ」
拳銃で心臓を撃ち抜かれたらきっとこんな感じだろうと思うくらいの、衝撃。
「そっか…ありがとう、聞いてくれて」と、女の子は気丈に言った。
眉尻を下げて「ごめん、でもすごく嬉しかったよ」と言葉を選んだ幸村は、私が見たことのない表情をしていた。
音を立てないように身体を起こして、ずるずるとその場にしゃがみ込む。
苦しくてどうしようもなくなって初めて、自分が息を止めていたことに気がついた。
は、と短く息を吐く。
吐いた息がとても熱くて、ああ、なんで泣きそうになっているのだろう、部外者の私が。