第28章 恋人はサンタクロース?〔木手永四郎〕*
「とりあえず、シャワー、浴びましょうか」
散らばった残骸を回収しながら洗面所へ向かった。
白いシャツのボタンを外す永四郎に、最初から感じていた疑問をぶつける。
「なんでスーツだったの? 髪もセットしてない、し…」
洗面所の鏡に映った永四郎は、もうシャワーを浴び終えた後のような髪型だ。
いつも外に出るときは、頑ななまでにリーゼントにこだわるのに。
シャワーのお湯を全開にした永四郎は、居心地悪そうにわしゃわしゃと髪をかき混ぜた。
「OB訪問だったんですよ。就活なのにリーゼントで行くわけにはいかないでしょう」
「ああ、そういうこと…」
「でも、タイミングがよかったですね」
「なんで?」
「社会人に見えたら、合コンに来ていた男どもも手を出しづらくなるでしょう。俺だって、妬きますよ」
「………はい」
瞳にまだ怒りを孕んでいるように見えて、私は縮こまる。
昔「殺し屋」なんてあだ名がついていたという話を思い出して、少し背筋が寒くなった気がした。
「心配しなくても、何もしませんよ」
「う、うん」
「…それに」
「ん?」
「彼氏を放っておいて合コンへ行ってしまうバカな人を、ちゃんと養える会社に入らなければいけませんからね」
「え…?」
「就活中はリーゼントは封印です、残念ですが」
永四郎はそう言いながら、大げさなため息を吐いた。
それは、あまりにもいつも通り、淡々とした永四郎で。
今、とても嬉しくて、すごく重要なことを言われた気がしたのに。
まじまじと顔を見てしまっていたらしくて「俺の顔に何かついてますか?」なんて聞かれたから、「なんでもないよ」と笑ってごまかした。
勘違いだったのだろうか。
いや、勘違いだったとしても、嬉しいけれど。