第28章 恋人はサンタクロース?〔木手永四郎〕*
「…もう、イッてしまったんですか」
永四郎はため息混じりにそう言いながら、片手で私を支えたまま器用にジャケットを脱ぎ、ベルトを外した。
服を着たままなのがもどかしくて、手首を戒めるネクタイを解いてほしいと頼んだけれど「ダメに決まってるでしょう」と一蹴されただけだった。
壁に縫いとめられて、片足を抱えられて。
パンプスが脱げて、ごとりと派手な音を立てて床に転がった。
硬く熱く張り詰めた永四郎自身が、私を一気に貫く。
「あぁんッ!」
達したばかりで涙を零し続ける敏感なそこを、永四郎は容赦なく穿つ。
身体がぶつかり合うたび、飛沫が自分のふくらはぎを汚した。
私の身体を知り尽くしている永四郎は、少しずつ角度を変えて、私の琴線を一つ残らずくまなくはじく。
鋭い呼吸の合間、熱い、と呟いた永四郎の声は湿っていて、今の私にはそれさえも快楽の材料になった。
普段の何倍にも研ぎ澄まされた感覚が、もう焼き切れてしまいそうだ。
「えーし、ろッ」
「…なん、ですか」
「ずっと…えーしろの、こと…考えッ、てた…」
「……」
「すき、だいすき、なの…っ、キス、して」
「……くっ」
触れた唇の熱と、最奥へと突き立てられた刺激で、私は再び達して。
それを合図にしたかのように、永四郎も白濁を吐き出した。
「…すみませんでした」
玄関の照明を点けた永四郎が、私の手首を拘束していたネクタイを外しながら言った。
紫のレジメンタルストライプのネクタイが解けると、赤い跡になっていた。
数日経ったら、ネクタイと同じような紫色になるかもしれない。
「こっちこそ、ごめんなさい」
そう言って、はたと周りを見渡す。
さっきまで真っ暗で気がつかなかったけれど、玄関のたたき部分はどちらのものともいえない体液でぐちゃぐちゃで。
乱雑に脱ぎ捨てられた永四郎のスーツや私のパンプスにまで、被害が及んでいた。
スーツは間違いなくクリーニング行きだと思ったら、酔いがすっと覚めた。
その惨状に、思わず顔を見合わせて苦笑いする。