第3章 HERO〔切原赤也〕
「ありがとう、もうすぐそこだから」
私がゆっくり立ち止まってお礼を言うと、切原くんは「気にすんなって」と手をひらひらさせて「林のモノマネも見れたし?」といたずらっ子のように笑った。
「遠かったでしょ、ごめんね。お礼に今度、お菓子でも作って持っていくね」
「マジ? よっしゃ!」
「お菓子は何が好き?」
「うーん、なんでも…クッキー?」
「わかった」
改めてお礼を言って、また明日、と傘を出ようとしたとき、視界が急に暗くなった。
耳の上あたりで息遣いが聞こえて、私は切原くんに抱きしめられていることに気がつく。
「…きり、はらくん?」
「クッキーもいいけど、これも欲しかった」
切原くんの腕の力がさらに強くなって、私は彼の左肩に額を預けた。
その肩の冷たさに驚く。
私の代わりに雨に濡れてしまった肩。
やっぱり、切原くんはヒーローだ。
「渚」
私を呼ぶ声がとても優しくて、私は濡れたシャツに手を伸ばした。
「好きだ」
切原くんの鼓動も私と同じくらい速くて、それが私をとても安心させてくれた。
私も、と発した声は少しくぐもってしまったけれど、彼にはきっと伝わっているはずだ。
にい、と笑った切原くんが「また一緒に帰ろーぜ」と言ったから、私は大きく頷いた。
彼の笑顔はやっぱり、私を笑顔にしてくれる。
私だけのヒーローだなんて言ったら、自惚れすぎだ、たるんどる、なんて切原くんみたいに怒られるだろうか。
いや、彼と一緒なら、怒られてみてもいい。
切原くんの後ろ姿を見送りながら、私はお母さんの言いつけを破って傘を忘れた自分を、心の中で思いっきり褒めた。
fin
◎あとがき
読んでいただき、ありがとうございました。
梅雨にちなんだ話をと思い、初めて赤也にチャレンジしましたが、ちょっと自信がありません。
いつかまた、別なお話でリベンジしたいと思います。
ここで夢を書き始めて少し経ちましたが、拍手やしおり、メッセージ等いただき、本当に嬉しい限りです。
この場を借りてお礼申し上げます、ありがとうございます。
励みにして頑張りますので、今後ともよろしくお願いします!