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短編集【庭球】

第28章 恋人はサンタクロース?〔木手永四郎〕*


沈黙を守ったまま、永四郎の部屋にたどりついた。
永四郎が鍵をガチャガチャと開ける隣で、私は手持ち無沙汰に立ち尽くす。
なんとなく、許可がないと部屋に入ってはいけないような気がしたから。
「入らないんですか」と怪訝な顔で促されて、ようやく玄関へ一歩踏み入れた。


「お邪魔しま…ッ?!」


いつもより控えめな挨拶は、後ろ手にドアを閉めた永四郎によって吸い取られてしまった。
呼吸もさせてもらえないほどの、深い深いキス。
普段なら真っ先に玄関の照明を点けるのに、それさえしないまま。

絡め取られた舌が、永四郎の長いそれに弄ばれて、甘く痺れる。
立っていられなくなってしがみつこうとした手は、強く引かれて永四郎の腰に回された。
どのくらい時間が経ったのか、唇が離れたときには、またお酒を飲んだようにふらついて、顔が熱かった。


「…あの男にこうされても、ついていったんじゃないんですか」
「…え…?」
「合コンと同じように、断れなかったと言って、ホテルに行ったんじゃないんですか」
「そんなこと…」
「ないと言い切れますか」


永四郎が語気を強めると、周りの空気がびりびりと震えたような気がした。
その迫力に、つい言葉が引っ込む。
暗闇の中で、眼鏡越しの永四郎の瞳だけが、燃えていた。


「…優しくなんか、しませんよ」


ぼそりとそう言った永四郎は、怒りをぶつけるような乱暴な手つきで、ネクタイを緩めた。
音も光もない部屋に、シュッと高い音が響いた。
永四郎はそのまま、ネクタイで私の両手首を縛りつける。
何重にも、きつく、きつく。
いつも私の身体を気遣いながら抱いてくれる永四郎からは想像もつかない行為に、私は呆然とするだけだった。


コートのボタンも、セーターの下のブラジャーのホックも、あっという間に外される。
永四郎が喜んでくれればと思ってセクシーな黒の下着にしたのに、なんて考えはすぐに吹き飛ばされた。

玄関で立ったまま、お酒で火照った身体と、縛られて動かせない両手と、永四郎の冷え切った指先と、無骨な手つきと。
ことごとくいつもとは違う感覚に、私の全身はみっともないくらいに反応する。
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