第28章 恋人はサンタクロース?〔木手永四郎〕*
いつもより数段低い声は有無を言わせぬ迫力があって、誰も何も言わなかった。
玲子だけは諦めたような表情で、白い息を吐いていた。
あれはきっとため息だろう。
「では、そういうことなので」
手首を掴んでいた永四郎の手が、腰に回った。
ハイヒールを履いた足が何度かもつれそうになるのを耐えて、私はしばらく永四郎に押されるように歩いた。
一度も振り返らなかった。
もちろん気まずさもあったけれど、もう二度と合コンなんてごめんだと思ったから。
「ふらふらですね」
足取りを緩めた永四郎が、横目に私を見下ろす。
言外に咎められているのだと理解して、私は小さく「ごめんなさい」と言った。
「ずいぶん待ちましたよ、東京の冬は堪えますね」
「…ごめんなさい」
永四郎にこんなにあからさまに嫌味を連投されるのは、初めてだった。
それはどう好意的に解釈しても、怒っているようにしか見えない。
「終わったらそのまま、永四郎の家行くって…言って、あったのに」
「…なんでわざわざ迎えに来たのか、と聞きたいんですか?」
前を見たまま、永四郎は刺々しい声で続けた。
「変な男に食われるんじゃないかと心配したんですよ。飲み会は久しぶりだったし、そもそもお酒、強くないでしょう」
「…おっしゃる通りです」
私が力なく肯定すると、永四郎は小さなため息をついて、それから何も言わなかった。
凛と背筋を伸ばして、険しく眉を寄せた永四郎は、酔って正常な思考ではないだろう私の頭でさえ、近寄りがたいと思うくらいだった。