第28章 恋人はサンタクロース?〔木手永四郎〕*
*裏注意
*大学三年設定
「かんぱーい!」
チン、とグラスのかち合う音が幾重にも重なった。
冷たいカクテルが喉を通り過ぎるのを感じながら、改めて自分がこの場にいることを疑問に思う。
よそ行きの笑顔を貼りつけて、時間が早く過ぎることだけを願った。
生まれて初めての合コンに名を連ねることになったのは、今日の昼のことだった。
友達の玲子が、学食で顔を合わせるなり両手を合わせて「お願い、私を助けると思って!」とすがるような声を出したのには、ずいぶん面食らった。
その勢いに押し切られるように頷いてしまった私が悪かったのだ、とは思う。
けれど先月、自分ではチケットを入手できなかったアーティストのコンサートに誘ってくれた玲子から拝み倒されてしまっては、どうにも断りようがなかった。
師走も十日が過ぎた金曜日、もともと予定していたメンバーに彼氏ができてしまったらしい。
私に永四郎という彼氏がいることは玲子も重々承知だし、むしろ永四郎を私に紹介してくれたのは玲子なのだけれど。
「彼氏ナシってことにしといて、木手くんには私からも謝っとくから」なんて先回りまでされて、さっき頷いてしまった私には、もちろん拒否権なんかなかった。
きっと玲子のこういう手際のよさが幹事向きなんだろうなと、ぼんやり思った。
もともと夜は永四郎の家に行って一緒に週末を過ごす予定になっていたから、それなりにオシャレしていたのも都合がよかった。
授業が終わった夕方、合コンに半強制的に参加させられることになった旨を永四郎にメールすると、しばらくして「飲みすぎには気をつけなさいよ」といつも通りさらりとした文面が返ってきた。
大人びていていつも余裕綽々な永四郎が、もしかしたら嫉妬心をむき出しにしたメールを送ってきてくれるかもしれないなんて淡い期待は、あっさり裏切られて。
「やっぱりね」という諦念と「もう少し心配してくれてもいいんじゃないの」という不満と、「そもそも知らない人と飲むなんて気が進まないな」という憂いとがぐちゃぐちゃに絡まり合って、長く深いため息になった。
それはクリスマスの装飾とBGMが賑やかな街に白く溶けたけれど、心に突っかかった小さな棘は溶けずに残った。