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短編集【庭球】

第27章 片想いラプソディ〔宍戸亮〕


「芥川くん、ちょっと、いいかな?」



昼休み。
ジローと林と俺、いつものメンツで弁当を広げようとしたら、ジローが女の子から呼び止められた。


確か、滝と同じB組の子だ。
滝のまわりをウロチョロして、少しでもジローと関わろうと必死だったから、印象に残ってる。
いつも寝てばっかのくせに、ジローって意外とモテるんだよな。

当の本人は寝起きでぼけっとしてたから、俺と林で無理やり叩き起こして、その子に押しつけた。
覚醒とはほど遠い様子を見ると、興味がないんだろう。
ジローの人の選び方は、露骨で残酷だ。


跡部や忍足を見てても思うけど、需要と供給ってのはつくづく一致しないもんだ。
モテる方も振られる方もお互いご愁傷さまだぜ、なんて思っていたら、さっさと弁当を食い始めた林がプチトマトのヘタをもぎながら「いいなあ、ジロちゃん」と呟いた。


「は? 何がいいんだよ」
「え、モテるのうらやましいなあと思って。ジロちゃんばっかりずるーい」
「しゃーねえだろ。しかもアイツ、どうせ断るぜ? 全然起きてなかったろ」
「まあそうなんだろうけどさー。けどいいなあ、私もモテたーい」


ヘタのなくなったプチトマトを唇に押しつけて、林は「ぶーぶー」とかなんとか言いながら、それを口に放り込んだ。
プチトマトになりたいと一瞬でも思った俺は、かなりヤバいと思う。

赤くなったかもしれない顔を隠すために、下を向いてチーズサンドにかぶりついた。
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