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短編集【庭球】

第26章 恋文〔柳蓮二〕


君がため
惜しからざりし
命さへ
ながくもがなと
思ひけるかな


「…藤原義孝、だったな」
「そ。現代語訳も、もちろん知ってるでしょう?」
「あなたのためになら命を捨てても惜しくないとさえ思っていたけれども、あなたと出逢ってしまった今では、あなたに逢うために少しでも永らえたいと思うようになった…というような意味だな」


五十番目のその歌は、想い人と心が通じ合った喜びを詠んだ歌。
珍しくぱちりと見開かれた蓮二の瞳を、私はまっすぐに見る。


「死んでもいいくらい幸せって思えるのも素敵だけど…でも蓮二に会えなくなっちゃったら元も子もないじゃない?」
「そうだな」
「だからね、私は蓮二と少しでも一緒にいたいから、長生きしようと思う」


「欲張りな渚らしいな」と優しく笑った蓮二に「そこが好き、でしょう?」と畳みかけたら、「今日は妙に冴えているな、その通りだ」なんて褒められたから。

永遠だって実現できる気がするし、手強い百人一首も覚えられるような気がするよ、蓮二。


fin







◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました!

年上彼女に少し振り回され気味の柳、いかがでしたか。
前に柳夢を書いたときも、勉強しているシーンから始まった気がします…進歩がないと猛省中。

百人一首を暗記してる子って素敵ですよね。
遠い記憶だと、あさのあつこさんの小説「バッテリー」にやたら百人一首に詳しい先輩が出てきたような…かっこいいなあと思ったものです。
テスト前に無理やり一夜漬けをした私は、もう数首しか覚えていませんが…。笑

少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
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