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短編集【庭球】

第25章 またあした〔真田弦一郎〕


ああ、なんてことを。
体温が一気に下がるような気がした。
せっかくこれまで、自分の中だけに秘めていたのに。
今の言葉を、掃除機か何かで全部吸い取って、回収してしまいたい。

「すみません、忘れてください」と言おうとした瞬間、先輩の口が先に開いた。


「予約などいらん」
「…え?」
「俺の隣は、ずいぶん前から林だけのものだからな」


今度は、私が驚く番。
瞬きも呼吸も忘れていたら、先輩が私の手を取って「帰るぞ、こっちでいいのか?」なんて言って歩き出すから、さっき下がったはずの体温が急上昇する。
きっと顔は真っ赤だ。


恥ずかしくて先輩の顔が見られないから、繋がれた手を見つめた。

ごつごつと骨ばっていて、さっきの電車ではずっと拳を握っていた手。
先輩の悔しさも苦しみも、すべてを知っている手。
大きくて強い、手。


先輩の孤独を、これからほんの少しでも埋めていけたらいい。
そんなことを思いながら、先輩の手をそっと握り返した。


fin






◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました!
初の真田夢、いかがでしたか。
真田しかり手塚しかり、カタブツはテニスを絡めないと書けないですね…嗚呼、この筆力のなさよ。

冒頭、別れの言葉を迷うシーンは、自分の大学時代の経験から。
引退の日の別れ際、「また明日ね」が「また、いつかね」になったとき、ああ私って本当に引退するんだ、と思いましたね。懐かしい。
タイトルを「またあした」としたのは、これから再び「また明日」の挨拶が使えるようになるのだということを表現したかったからです。

話は変わって、実際、真田ってすごく幸せにしてくれると思いませんか。
あと個人的には、ものすごい絶倫だと思う。笑
好きなキャラというわけではないんですが、もし仮に結婚するなら絶対真田だな、なんて書きながら思いました。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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