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短編集【庭球】

第25章 またあした〔真田弦一郎〕


「先輩は、そのまま高等部に進むんですよね」
「ああ」
「もちろんテニス部に?」
「無論だ」
「じゃあ来年は中等部と高等部、ダブルで全国制覇しましょうね」
「ああ、そうだな」


テニスコートはばらばらになってしまうけれど、来年も同じ目標に向かって一緒に戦うのだと信じよう。
先輩が頑張っていると思えば、私もまた明日から、頑張れるはずだ。


「…少々先の話だが」
「はい?」
「再来年も、俺たちをサポートしてくれないか」


え、それって。

思わず足が止まる。
私が立ちすくんだことに気がついた先輩が、一歩前で立ち止まって振り返った。


「…私で、いいんですか?」
「無論だ。受けてくれるか」
「はい、もちろんです」
「そうか。ではマネージャーの席は林のために空けておく」
「はい!」


こくこくと、何度も頷く。

一年間は離れ離れだけれど。
これまでと同じようにまた先輩のそばで働けると思うと、楽しみで仕方がない。
何より、他の誰でもない先輩がリクルートしてくれたことが、嬉しかった。

急に笑顔になった私を見たからなのか、先輩の表情がほんの少し、和らいだ。


「では、高等部で待っている」
「あの!」
「ん? なんだ」
「帰りの電車、先輩の隣の席も、予約しておいてほしいんですけど!」


嬉しさでふわふわした気持ちのまま、気がついたときにはもう、勢いで言ってしまっていた。
帽子の奥、先輩がぱちりと目を見開くのと同時に、自分の発した言葉に自分でびっくりして「あ」なんて言ってしまって、それからひどく後悔した。
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