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短編集【庭球】

第25章 またあした〔真田弦一郎〕


「……じゃ、また、な」


夕方の横浜駅。

幸村先輩の「解散」という一言の後、いつもは決まって「また明日」と言い合って散り散りになっていたのに。
先輩たちが使い慣れない別れの言葉を探す微妙な間は、立海の夏が終わったことを実感させるには充分で、私はまた泣きたくなった。


いつもより時間のかかった別れ際、最後に「林。赤也のこと、頼むよ」と淋しそうに手を振った幸村先輩の後ろ姿が人ごみにまぎれて見えなくなるまで見送ったら、会場でも散々泣いたくせにまた目が潤んだけれど。
「…俺たちも、行くか」と真田先輩の声が頭上から降ってきたから、頷いた拍子に涙がこぼれ落ちないように奥歯を噛みしめて、足を踏みしめて、ぐっと堪える。

その声が普段よりもいくぶん優しいもののように聞こえたのは、聞き間違いではないと思う。


重たそうなテニスバッグを背負った大きな背中に続いて、乗り換え改札をくぐる。
運よくホームに停車していた横浜始発の電車に乗り込んで、二人並んで腰掛けた。
訪れた沈黙の真ん中を「発車まで今しばらくお待ちください」という車掌さんのアナウンスが通り過ぎていった。







私がテニス部のマネージャーになったのは、何を隠そう、真田先輩がテニスをしている姿に一目惚れしたからだ。
本人の耳に入ったら「たるんどる!」なんてクビにされてしまいそうだから、誰にも言ったことはないけれど。

その先輩とは、同じ路線を使っている縁で、帰りがいつも一緒だった。
毎日部活があった夏休み中は、それこそ朝から夕方まで一緒にいられたから、このままずっと夏休みが続けばいいと真剣に願っていたのに。


三連覇は目の前でするりと逃げていって。
先輩の最後の夏は、終わってしまった。
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