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短編集【庭球】

第24章 Flavor of love〔丸井ブン太〕


ブン太お手製のバースデーケーキが、もうすぐこの部屋に運び込まれるだろう。

学校からの帰り道、ケーキに載せるフルーツをスーパーで調達しながら「スポンジは昨日の夜、あいつらが寝たあとに焼いたんだぜぃ」とブン太が言っていた。
男の子の喜びそうなプレゼントが思いつかなかった私は、ブン太のアドバイスに従って、駿太くんの喜びそうな食玩つきのお菓子を何種類か買って、鞄に忍ばせている。


「ふふ、おめでとう。駿太くんは、大きくなったら何になりたいの?」
「えっとね、ぼくがおっきくなったら、渚ちゃんとけっこんするの!」
「えー? ほんとー?」
「ほんと! ねーねー、やくそくしてくれる?」


舌足らずだけれど、まっすぐな言葉で話してくれるのが微笑ましくて、自然と笑顔になる。
「ゆびきりして?」と小さな手を差し出してきた彼と指を絡めようとした、そのとき。


「おいおい、そんなんダメに決まってんだろぃ」


がちゃ、とドアが開いて、ケーキを持ったブン太が部屋に入ってきた。

「俺特製の絶品ケーキだぜぃ」と言いながら、高級店のウェイターさんみたいに軽やかな手つきで、大きなケーキを音もなくテーブルに置く。
生クリームでデコレーションされたケーキの真ん中には、さっきスーパーで買った色とりどりのフルーツが華やかに盛られていた。
ケーキ作りが得意だとは聞いていたけれど、ここまでの腕前だったなんて、とケーキに釘づけになっている私を横目に、駿太くんは不満そうに唇をとがらせる。
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