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短編集【庭球】

第24章 Flavor of love〔丸井ブン太〕


ふんわりとした甘い香りが、扉を一枚隔てたこの部屋にも流れ込んでくる。
カシャカシャ、と泡立て器がボウルの底にぶつかる音の奥に、上機嫌な鼻歌が微かに聞こえた。


「渚ちゃん、なにわらってるのー?」


自然と頬が緩んでいたらしい。
視線を落とすと、彼氏とよく似た澄んだ瞳が、まっすぐに私を見上げていた。


「なんでもないよ。わあ、これ車? すごい、上手だね」
「えへへ〜」


小さな青いブロックを積み重ねて車らしきものを作り上げた末っ子の駿太くんは、私が褒めると得意げに笑った。

真ん中の寛太くんは一心不乱に白のブロックばかりを集めて、かなりの大作を手がけている。
たぶん大きな家を作っているんだろう。
前に「大工さんになりたい」と言っていたのを思い出す。


ブン太の部活が休みの日、私はよくこの家に来る。
私にはお姉ちゃんが一人しかいないから、男の子がどんなことをして遊ぶのか最初はまったくわからなかったけれど、駿太くんと寛太くんは人見知りせずに、ブロックやらボードゲームやらに私を誘ってくれる。
最近ではヒーローごっこの悪役だってできるようになって、ブン太には「ずいぶん板についてきたぜぃ」なんて褒められた。


「ひとつお兄さんになるんだもんね、さすがだね」
「うん!」
「何歳になるんだっけ?」
「ごさい〜」


小さな手のひらを目一杯広げて、満面の笑顔。

今日は駿太くんの誕生日だ。
今月のオフをいつにしようかと迷っていた幸村くんに、ブン太は「弟を祝ってやりたいから」と今日を指定したらしい。
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