第23章 毒を仰げば〔白石蔵ノ介〕
蔵の形のいい唇が、私のそれを啄んだ。
呼吸さえ許さないというような無茶苦茶なキスなのに、窮屈な姿勢をしていた私をベッドに押し倒す手つきは、とびきり優しかった。
さっきもいい加減抱き合って、私なんてそのままうたた寝してしまうくらいにいろいろ使い切ったというのに。
この人は、その艶やかな声で、キスで、手で、いとも簡単に私の理性をぶち壊していく。
CMに入っていたテレビは、またニュースに切り替わったらしい。
天気予報を伝える女性アナウンサーの声が、さっきよりもずっと遠くから聞こえるような気がする。
「…私、病気かもしれへん」
「え?」
「こんなことすんの初めてやないのに、初めてなんちゃうかってくらい心臓バクバクいってるんやで。病気なんちゃうやろか」
上がった息を整えるようにそう問いかけると、蔵は笑って、私の額にキスを落とした。
「その病気なら、一生治らんでええわ」
「なんで?」
「毒をもって毒を制すって言うやろ。一生一緒におればええねん、そのうち慣れるんちゃう?」
「…それ、プロポーズ?」
「そう受け取ってくれてもええで」
蔵がテーブルの上のチャンネルに手を伸ばした。
つられて視線を動かすと、グラスの氷はもうすっかり溶けて、水になっていた。
テレビを消した蔵は「ま、正式なんはまた後々やけどな」と笑った。
やっぱ蔵自身が毒やったんや、毒手っちゅーやつもあながち間違ってへんのやね。
言いかけた台詞は、蔵が降らせてきたキスの雨に溺れて、甘い吐息になった。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました!
かなり久々に書いた白石、いかがでしたか。
考えば考えるほど、白石ってわからないというか、闇が深くて難しいです。
あーでもないこーでもない、と無限ループに入りかけては踏みとどまり、足りない想像力をかき集めて書きました。
ちなみに、冒頭に出てきたカフェイン過剰摂取のニュースがあったのは昨年です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。