第23章 毒を仰げば〔白石蔵ノ介〕
何も身につけていない上半身に、無駄な贅肉は一切ない。
何度も目にしているはずなのに、うっかり見惚れてしまいそうになる。
目を閉じてグラスに口をつける蔵の顔を見ながら、非の打ち所がないというのはこういう人を指すのだろうなと思う。
ミルクティーを流し込む喉仏が上下に動く。
それはいやに扇情的で、身体の奥が痺れるような気がした。
ついさっきまで身体を重ねていたのに。
「しゃびしゃびになってもうたな。カフェインなんか入ってませんって味やわ」
「言えてる」
「こない薄味でも、飲み過ぎたらあかんねんな」
「せやね」
「薬でもなんでも、飲み過ぎは毒になるんやな。渚と一緒や」
「え?」
頭も身体もしっかり覚醒したはずなのに、蔵の論理はどうも飛躍しているように聞こえて、いくら考えても腑に落ちない。
首を振って「わからへん」と先を促すと、蔵は氷だけになったグラスをテーブルに置いて、私をベッドへ座らせた。
二人分の重みで、ベッドのスプリングがぎしりと小さな悲鳴を上げた。
「渚と話したり、会われへん日はメールしたりするだけで、なんや力湧くっちゅーか、明日も頑張ったろって思うねんけどな」
後ろから筋肉質な腕が伸びてきて、私の腰にするりと巻きつく。
私を魅了してやまない蔵の手に、右手の指先をそっと絡めた。
蔵が一瞬ぴくりとしたのを背中で感じたと思ったら、すぐに腕の力が強くなった。
「こうやって一回抱くと一生離れたくなくなってしもて、もうあかんねん。ここまでくると、もう毒やわ」
身体に収まりきらなくなった不安がこぼれてきたような、そんな声だった。
一年前、付き合おうと言ってくれたときの声とよく似ていた。
顔は見えないけれど、きっとあの日と同じように眉根を寄せて、困った表情をしているのだろう。
みぞおちのあたりを強く押されたように、苦しくなった。
息遣いからは、苦笑いをしているのが伝わってくる。