第23章 毒を仰げば〔白石蔵ノ介〕
つけっ放しのテレビが、いつの間にかニュースを流し始めた。
最近白髪が目立ち始めたおじさんアナウンサーが、カフェインの過剰摂取で国内初の死亡例が出たことを伝えている。
「要は栄養ドリンク飲み過ぎたっちゅーこと?」
「そうみたいやなあ」
隣で頬杖をついて寝転がっている恋人は、それまで聞き流していたテレビに、興味深そうに見入っていた。
ふと喉が渇いていることに気がついて、ぼんやりしていたベッドからゆっくり抜け出す。
床に散らばった下着とTシャツを身につけた。
ジーンズは、まだいいか。
意識して聞いていたわけではないのに「コーヒーや緑茶、紅茶などにもカフェインは含まれています」というナレーションが耳に入ってきて、テーブルの上のミルクティーへ伸びかけていた手が思わず引っ込んだ。
グラスには触っていないのに、中の氷がカランと鳴った。
「紅茶一杯くらい、びびらんでもええやろ」
珍しいものを見るかのようにぱちりと大きく瞬きをして、蔵は私の仕草を笑った。
グラスの中身と同じ色の髪を、さらさらと揺らしながら。
「せやけど…こんなん見たら、なんか心配になるやん」
「こんくらいならええって。これまでも散々飲んできてるんやし」
「せやろか」
「おん。栄養ドリンクみたいなきっついやつをガブ飲みせえへんかったら大丈夫やで」
促されて、汗をかいたグラスを手に取る。
ミルクティーはかなり薄まっていたけれど、渇いた喉にはちょうどよかった。
口を離した瞬間、グラスの汗が太腿にぽたりと落ちた。
その冷たさに身体が反射的にこわばって、頭が一気に覚醒する。
「わ! つっめた!」
「ははは、今めっちゃびっくりした顔してたで」
「あーもう、一気に起きたわ」
「俺にも一口くれへん?」
「ん、はい」
ベッドに身体を起こした蔵に、グラスを手渡した。