第22章 愛より青し〔丸井ブン太〕
仁王くんが一歩近づいてきて、背の高い彼を自然と見上げる形になる。
ミステリアスなのにどこか華がある、整った顔。
飽きもせず何度も失恋を繰り返してきた私がまだブン太に未練たらたらなのを知っていて、それでも私を選んでくれるだなんて。
仁王くんのことが好きだという女の子たちの気持ちが、少しわかるような気がした。
「俺は丸井みたいに、お前さんのこと泣かせたりせんけえ」
このまま、彼の優しさに流されてしまってもいいのかもしれない。
その方が、私は幸せなのかもしれない。
ひんやりした両手が、私の頬に触れた。
仁王くんの顔が、ゆっくり近づいてくる。
キスされる──
そう思った瞬間に、私は反射的に仁王くんの胸を押し返していた。
「……ごめん、やっぱ、だめ」
「…そうか。なら、仕方ないのう」
ふ、と一歩分、作り物みたいに整った顔が離れていく。
宙に浮いた両手を下ろして、仁王くんはほんの少し悲しそうな目をして「悪かった」と言った。
謝らないで、仁王くんは悪くないよ。
悪いのは、いつまでも諦めの悪い私だよ。
そう言おうとしたけれど、黙って首を振ることしかできなかった。
そのとき、私の後ろでバン、とけたたましくドアが開く音がした。
驚いて振り返ると、そこにいたのは。
「ブン、太…?」
「…何やってんだよぃ」
見たことがないくらいギラギラした目で、私たちを睨むブン太。
なんでブン太が、ここにいるの?
なんでそんなに恐い目をしてるの?
息が上がってるよ、走ってきたの?
ねえ、なんで。