第22章 愛より青し〔丸井ブン太〕
「おい仁王、あれだけブン太が…あ、いや…」
「こんなになるまで放っとく丸井がいかんのじゃろ」
ジャッカルの歯切れの悪い突っ込みを、仁王くんがばさりと一言で片付ける。
小さなため息をついたジャッカルは、肩をすくめたきり何も言わなかった。
「な、悪い話じゃないけえ」
「…あ、予鈴。行かなきゃ、ほら、遅刻する」
ずいぶん遠くから聞こえてきたように感じた予鈴に弾かれるように、仁王くんのテリトリーから抜け出す。
「お弁当、よろしくね」と言い置いて、急いで部室を出た。
心臓が口から出てきそうなくらいに跳ねているのは、手のひらが汗ばんでいるのは、期待なのか緊張なのか、それとも動揺なのか、私にはわからなかった。
心ここにあらずの状態でも時間は勝手に過ぎていくもので、気がついたら昼休みになっていた。
お弁当を机に出したはいいものの、食べる気が起きなくて呆けていたら、肩を叩かれて。
「なに?」と振り返ったら、いつの間にか私のクラスにしれっと入ってきていた仁王くんで、また心臓があらぬ方向へ跳ねた。
「昼飯、一緒に食わん?」
一応誘う口調ではあったけれど、その目が有無を言わせない鋭さだったから、私は黙ってやむなく立ち上がる。
それきり一言も交わさないまま、手を引かれてたどり着いたのは屋上。
ブン太に負けず劣らず人気者の仁王くんのことだから、教室へ戻ったら女の子たちに質問責めに遭うんだろうなと、眩しいくらいの銀髪を見ながら思った。
仁王くんがゆっくり振り返った。
視線がぶつかる。
「大丈夫じゃありませんっちゅう顔しとるのう」
「そんなことないよ」
「見え見えの嘘なら、吐かん方がましじゃな。バレる嘘は嘘とは言わんぜよ」
「……ごめん」
嘘を吐かせたら一級品の仁王くんが言うなら、きっとそうなのだろう。
私が素直に謝ると、仁王くんはかすれた低い声で笑った。
「朝も聞いたが、俺にしとかん?」
「かわいそうな私を慰めてくれるんだ?」
「そりゃ、な。好いとる女が泣きそうなら、尚更な」
「…え」
「好いとうよ」
「……冗談かと思ってた」
「そんなわけなかろ、俺は本気じゃよ」