第21章 ノーサイド〔越前リョーマ〕
「私の方が、ずるい、よ」
どれくらい時間が経ったのか、リョーマは私の涙が止まるまで、抱きしめていてくれた。
流した涙には、悲しさと安堵と一緒に、自分がしてきたことへの後悔が入っていたと思う。
「知ってる。けど俺は、渚先輩がいい」
身体を離して、リョーマがまたまっすぐ、私を見た。
だめだよ、やめて。
リョーマのそのまっすぐさが、苦しいんだよ。
私のずるさが、際立つから。
「だめ、だよ」
「なんで」
「こんなずるいやつのこと好きになっちゃ、だめ」
「それでもいいってば」
「だめなの、リョーマにはもったいないから」
そんな押し問答を繰り返していたら、リョーマがこれ見よがしにため息をついた。
こういうところは海外仕込みなんだよな、なんて思いながら黙っていたら、不意に顎を捕らえられて。
リョーマの唇が、私のそれに押しつけられた。
一瞬のことだったような、結構長い間だったような、不思議な感覚。
何しろ突然で、目を閉じる暇もなかった。
「俺、今の、ファーストキスだったんだけど」
「……へ?」
呆然としていた私に投げかけられたのは、これまた予想外な言葉で。
驚きが何重にも重なって、間抜けな音が口から漏れた。
「責任、取ってくれんの?」
「え、えっ? だって、リョーマから…」
「でも、初めてには変わりないじゃん」
唇の端をきゅっと上げてにやりと笑ったリョーマが、私の顎を固定していた指で、頬から首にかけてのラインをゆっくりと撫でる。
その手は同時に、私の心もぐしゃぐしゃに掻き乱していく。
「えっ…そんなの」
「今、そんなのずるい、って言おうとした?」
「! …」
「ね、俺の方がずるいでしょ。はい、俺の勝ち」
だから、俺のになってよ。
好き勝手に動いていたリョーマの指が、私の唇にそっと触れた。
さっきキスした、唇。
言葉が継げなくなっている私を見かねたのか、リョーマはそのまま人差し指でとんとん、と唇をノックして。
「ね、はやく」と、声にならない大きさの吐息で私を急かす。