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短編集【庭球】

第2章 やさしいキスをして〔忍足侑士〕


「やっとわがまま言うてくれた」
「…え?」

忍足は私が泣き止むまで、いろんな話をしてくれた。
一年の頃から、私の顔が見たくてクラスに遊びに来ていたこと。
私の気が引きたかったのと、付き合えばその子のことを好きになれるかもしれないと期待して、何人もと付き合ったり別れたりを繰り返していたこと。
私がまったく意に介さない様子だったから、強引に付き合うように仕向けたこと。
付き合っても私がそれまでと何も変わらないから、忍足はどうしようかと考えあぐねていたこと。

初めて聞く話ばかりで、私はこんなにも忍足のことを知らなかったのかと驚いて。
それを口にすると「お互い様やんか」と笑われた。


その日、私たちは初めて手を繋いで帰った。
帰る道すがら、向日くんから聞いた話をぶつけてみると、忍足は「ああ、あれ? あの子、宍戸のことが好きやねん」と言って。
相談乗ってって頼まれてしもて、と罰の悪そうな顔をして「渚が嫌やったら、もう絶対会わへんよ」なんて言うから、彼女が不憫だから相談には乗ってあげて、と逆に私から頼んだ。

忍足が急に真剣な表情になって「俺から離れていかんとって」と、私の手を強く握ってきたから。
私はうん、と頷いたあと「しょうがないから、一緒にいてあげるよ」と笑った。


夕日に伸びる、二つの影。
背の高い忍足の影に私の影がすっぽり隠れて、一つになる。

二度目のキスは、ほんの少しだけ涙の味がしたけれど。
とても優しいキスだった。


fin





◎あとがき

拙い文章をここまで読んでいただき、ありがとうございました!

ヒロインちゃんが意地っ張りで、なかなかこちらの思惑どおりに動いてもらえず、苦労させられました。
台詞が多めなので、リアル感を出すのが難しく…

タイトルは、もしこのお話にBGMをつけるなら、と考えて選びました。
DREAMS COME TRUEさまの名曲、完全に名前負けしてしまっているとは思いますが。
少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。
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