第2章 やさしいキスをして〔忍足侑士〕
「どうしたん? 急に」
「急じゃないよ、ずっと考えてた」
「ずっと?」
「うん、ずっと」
「…さよか。なんで?」
なんで。
なんであの日、忍足は私と付き合うなんて言ったのだろう。
「私は忍足の思ってるような、できた彼女じゃないから」
「そないなことあらへん」
「あるの、すごくあるの」
「そないなことあらへん!」
忍足が両手で、私の肩を掴んだ。
その手が思っていたよりも力強くてあたたかくて、せっかくの決心が揺らぎそうになる。
本当は忍足の手を振り払えばいいのだろうけれど、臆病な私はそれができない。
「そんなことあるんだよ、私は忍足の嫌いな重い女だから」
「そないなこと言うなや」
「だって、本当だよ」
「重くてええんや、渚なら」
「だめだよ、重たい女は手に負えないって前に言ってたもん」
「渚ならええの」
どうしてこんなときだけ、優しく名前を呼んでくれるのだろう。
必死にせき止めていた涙腺が、もう決壊寸前だ。
「私、本当に重たいよ」
「うん」
「他の女の子にいい顔しないでって責めるよ」
「ええよ」
「毎日電話してって言うよ」
「したる、毎日したる」
「毎日一緒、に、帰り、たい…って」
「ええよ、手ぇ繋いで帰ろな。寄り道もしよな」
忍足は、涙で言葉が出なくなった私を強く抱きしめて。
その温もりがひどく優しくて、私はまた泣いた。