第20章 あした世界が終わるなら〔千歳千里〕
「なん…で?」
なんとか絞り出した言葉は、震えていた。
嬉しさと、怖さで。
ふとした気分だとか、思いつきだとか、千歳の口からそういう不確かな言葉が出てくるのが怖かった。
千歳には何も求めないと自分で誓ったはずなのに、いざ約束を交わすとなると、やっぱり求めてしまう。
千歳の未来のすべてを。
「昨日、山で散歩ばしとったら、草むらでシカが死んどったったい。小さかったけん、穴掘って埋めてやったっちゃけど」
「…うん」
「そんとき、渚に会いたかっち思ったと。俺もいつか死ぬけん、死ぬんやったら、最後に渚の顔見たかっち思ったと」
「……うん」
「ばってん、いつ死ぬかわからんけんさ。ずっと一緒におったら、見れるっちゃろ?」
だけん、ずっと一緒におってくれんね?
そう言った千歳の声も、少し震えていた。
濡れた黒曜石のような瞳が、私を見つめる。
どれだけ悲しい死に方だとしても、最後に千歳の顔が見られたら、それで私の人生はきっと幸せだ。
そのとき自分が愛されていたと感じられたらなおのこと、そのまま天国へ行けると思う。
いや、千歳と一緒なら地獄でも幸せだろう。
「…うん。ずっと一緒にいたい、ずっと」
千歳と交わした、初めての約束。
言い終わらないうちに、強く抱きしめられた。
普段指輪なんてつけない左の薬指が、なんだかくすぐったい気がする。
ねえ、明日世界が終わるなら、私も千歳の腕の中で死にたいよ。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
丸井夢がなかなか進まない中、ぶわっと思いついた千歳夢。
千歳夢ってあんまり人気も需要もないんだろうなと思いつつ、でも思いついて形にしてしまったので、更新してしまいました。
どうなんだろ、千歳スキーな方、いらっしゃるのかな?
書きながら思いましたが、この夢の千歳、嫌なやつですよね!笑
他の女の子の影をヒロインちゃんは心配してますが、実際千歳はヒロインちゃん一筋だといいな。
それから千歳は陶芸家をやっていて、東京で個展を開くときにヒロインちゃんに会いにくる、というようなイメージ。
ちょうど陶芸でなんとか食べていける感じになってきたタイミングだった、とかだとなお良し。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
さあ、書きかけの丸井夢に取り掛からねば!