第20章 あした世界が終わるなら〔千歳千里〕
五つ目の駅で電車から吐き出されるようにホームに降りて、改札を抜けた。
帰りがけにあるスーパーに寄って、食材を物色する。
冷えてきたしくたくただから、今日は鍋にしよう。
たぶん明日もほとんど同じ鍋にしてしまうだろうなと考えながら、マンションまでの道のりを惰性で歩く。
渡り鳥が羽を休めるように、千歳が私のところへ時折立ち寄ってくれれば、それでよかった。
それまでの間、どこの窯でどんな陶芸をやっていようとも、どこで誰と寝ていようとも、構わなかった。
私のことをふと思い出して会いたいと思ってくれるのなら、いくらでも応えたいと思った。
冷静に考えれば単なる都合のいい女なのかもしれないけれど、それでもよかった。
そう思えるほど、二人でいるときの心地よさが好きだった。
何も話さなくても、別々のことをしていても、お互いが空気になったように自然体でいられた。
千歳が出て行くと、自分の部屋だというのに、まるで主がいなくなったみたいに部屋全体が急に寒々しくなった。
体を重ねたときの相性はよかった。
ぴったりと隙間なくひとつになって溶けあうと、私たちはもともとひとつだったんじゃないかと感じることさえあって、その気持ちよさは何にも代えがたかった。
もう千歳しかいらない、と思うくらいに。
それは強がりでもなく、悲劇のヒロインぶりたいわけでもなく、ただただ、千歳がよかったのだ。
離れて暮らす両親に「まだ彼氏もいないのか」とあからさまに結婚を急かされても、その想いは変わらなかった。
いや、結婚が一世一代の賭けだと思えばこそ、よりいっそう強固なものになった。
千歳以上に好きな人とでなければ、結婚なんて無理だった。
けれど、千歳以上に好きな人は、一向に現れなかった。
いや、無駄な作業だと知りつつも、心の奥底ではきっと今でも願っている。
千歳も同じように思っていてくれればいいのにと。
だから同窓会のメールを見て、自分の出欠より先に千歳のことを考えてしまったのだと思う。
だから、驚いたのだ。
だって、想像もしていなかった。
こんな日に限って、千歳が来るなんて。