第20章 あした世界が終わるなら〔千歳千里〕
ときどき思いついたように私を訪ねてくる千歳と関係を持つようになって、もう五年が経った。
それは文字通り本当にときどきのことで、忘れた頃にひょっこりやってきては数日間、長いときには二週間私の部屋に滞在して、そしてまたふらりとどこかへ行ってしまうというパターンの繰り返し。
会わない期間はまったくの音信不通なのだけれど、さも当然とでも言わんばかりに毎度毎度悪びれることのない千歳に対して何も言う気が起こらなくなるのに、五年という月日は充分すぎるほどに充分だった。
もしかすると他人からは私たちが付き合っているように見えていたのかもしれないけれど、私たちがそういう約束を交わしたことは一度もなかった。
というより、千歳は約束をしないのだ。
「ずっと一緒にいられたらいいのにね」という傲慢な気持ちの押しつけは、曖昧に笑って受け流す。
「今度海に行こうよ」という漠然とした誘いは「そうたいね」とはぐらかして、こちらが具体的な日時に言及するのを柔らかく、でもはっきりと拒む。
こういう関係を始めたばかりの頃、何度かこんなやりとりをして、私は悟ったのだ。
きっとこれまでも、千歳の未来がほしいと躍起になる女の子たちから、ことごとく離れてきたのだろうと。
実際に見たことはないし、本人に確かめたことだってないのだけれど、それはもうありありと想像できて、それから私は自分から約束を吹っかけることをやめた。
できない約束、守れないかもしれない約束はしない。
その代わりに約束を破ることも、裏切ることもない。
その意味で、千歳はとても誠実だった。
だから私は、千歳に何も求めなかった。