第20章 あした世界が終わるなら〔千歳千里〕
*社会人設定
この世界のあらゆる縛りを絶って自由に生きることができるとしたら、それは千歳みたいな生き方なのだと思う。
定時を二時間ほど過ぎて家路を急ごうとしたとき、バッグの中で携帯が震えた。
歩きながらさらりと目を通すと、来月にある同窓会の出欠連絡を催促する内容だった。
そういえば少し前にメールが来ていたっけ。
ここのところ忙しくて、返信するのをすっかり忘れていた。
同窓会、か。
千歳も私と同じように返信せずに催促を受けているだろう。
そしてきっと、 このメールにも返信しない。
当日になって気が向いたら、ふらりと顔を出すのだ。
もちろん、たっぷり遅刻をして。
来月末の土曜日に予定が入っていたかどうかよりも先に、千歳のことが頭に浮かんで、苦笑いが漏れた。
前回会ったのは、いつだっただろう。
記憶を手繰り寄せようとしたけれど、仕事終わりの疲れ切った頭は霞がかかったようで、まったく思い出せない。
サラリーマンで混みに混んでいる快速電車に身体をねじ込んだ。
なんとか右手を動かす隙間を確保して、携帯のスケジュールアプリを開く。
今のところ同窓会当日に予定はないけれど、迷うところだ。
大学進学を機に東京暮らしだから久しぶりにみんなに会いたいのは山々だけれど、仕事の繁忙期はきっと来月も続くはずだ。
果たして大阪まで往復する元気が残っているだろうか。
…だめだ、帰ってお風呂に入ってからゆっくり考えよう。
いつの間にかディスプレイが真っ暗になっていた。
うっすら映った自分の顔が心なしかげっそりしているように見えて、ため息が出た。