• テキストサイズ

短編集【庭球】

第19章 ドクター、こっちを向いて〔忍足侑士〕


侑士からの愛が大きいことはとても嬉しいけれど、不安になる。

私はこんなに愛される価値のある人間なのかと。
与えられた身に余るくらいの愛を、仇で返してしまっているんじゃないかと。
いつか、愛想を尽かされてしまうんじゃないかと。



私のさっきのぎこちない質問で、侑士にはきっと全部お見通しだ。
久々に病院に行って触診されて、将来侑士が女の子に同じように触診しているシーンを想像して凹んでいること。
相手のいない漠然とした嫉妬なんて、面倒臭いだけだろうに。


自意識過剰だと言われるかもしれないけれど、侑士は私が嫌がるならと、臨床医になることを勝手に諦めてしまうかもしれない。
私に気を遣わせないように、さも昔から医学研究をしたかったように装うのかもしれない。
もし臨床医になったとしても、「堪忍な」と眉尻を下げて謝るだろう。

侑士はそういう人だし、私はそれくらい、愛されている。
でも、私のせいで侑士が引け目を感じるのは、絶対にだめだ。



私は、侑士の夢と私への愛を、天秤にかけさせたいわけじゃない。
比べられるものだとも思っていない。

「医学部、決まったで」と私に報告してくれたときの笑顔も、「ちっさいころからの夢やってん」と昔のアルバムをめくりながら教えてくれたときの声の力強さも、何が書いてあるのかまったくわからない教科書に線を引くときの真剣な表情も。
ずっとあたためてきた夢を追う侑士のことを、心から応援したいと思ったあのときの気持ちに、決して嘘はない。
ただとっさに、侑士が他の女の人に触れることを嫌だと思ってしまったのは、いわば条件反射のようなもので。

きっと時間が解決してくれるはずだ。

慣れるって、そういうことだと思う。
デートの待ち合わせに少し遅れて行くと必ず侑士が逆ナンされているのだって、最初は不安で不安で仕方がなかったけれど、今では免疫がついたじゃないか。
内科でも外科でも、何科のお医者さんでもいいじゃないか。

…あ、それでも産婦人科だけはちょっと嫌かもしれない、けれど。
/ 538ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp