第2章 やさしいキスをして〔忍足侑士〕
向日くんは申し訳なさそうな顔をして、ごめん、と言った。
「向日くんは悪くないよ。教えてくれてありがと」
ショックだったけれど、結果的に私の傷が一番浅く済むだろうと彼なりに考えてくれたのが嬉しかった。
向日くんの前で泣いてしまったら、余計に困らせてしまう。
大丈夫、うまく笑えているはずだ。
その夜、私はベッドの中で携帯を握りしめていた。
賭けだった。
鳴らない電話を待って、ディスプレイを見つめて。
私は、バカだ。
涙も出ないな、と思った瞬間に、涙が溢れてきた。
この期に及んでまだ、友達でいいからそばにいたいなんて。
自分がきつくなるだけなのに。
そしてやっぱり、携帯は鳴らなかった。
私は、賭けに負けた。
まったく眠っていないから、朝日がいつもより三割増しにまぶしかった。
くまがひどいし、まぶたも泣いて腫れぼったいから、怒られない程度に薄く化粧をして学校に向かう。
もうすぐテスト期間だというのに、午後の授業はうとうとして。
待っていたような、待っていなかったような放課後は、すぐにやってきた。
「ねえ、忍足」
教室を出て行こうとしていた忍足を呼び止める。
他愛もない世間話をして、次々に帰っていくクラスメイトに手を振りながら、二人きりになるのを待った。
すうと息を吸って、まっすぐ忍足を見て。
「終わりにしよっか、私たち」
「…え?」
眼鏡越し、忍足の目が大きく瞬いた。