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短編集【庭球】

第19章 ドクター、こっちを向いて〔忍足侑士〕


*大学生設定







「侑士は、さ…何科、に、進むの?」


さりげなく聞いたつもりが、まったくさりげなくならなかった。

声はこわばっているし、言葉はおかしなところで切れるし、だめだ、ぎこちなさすぎる。
聞くなら体調が万全のときにすればよかったと、身体のせいにしてみたけれど、もう遅い。
もっとも、体調がよくても聞きたいことは同じなのだから、いずれにせよこうなっていたような気もするのだけれど。


「…どしたん、急に?」


ラケットにグリップテープを手際よく巻き直しながら、侑士は私をちらりと見て尋ねた。
字面そのものは脈絡のない質問に驚いたといった風情だったけれど、その前の絶妙な間と少しの含み笑いが、私の問いかけから敏感に他意を感じ取っていることを物語っていた。

どちらかといえば口下手な私は、この人の察しのよさにこれまで何度も助けられてきたし、それについては感謝さえしているのだけれど。
今は困る。
かなり困る。


「いや、ちょっと、気になっただけ。もう決めてるのかなーって」
「んー、まだ決めてへん、かな」
「…そっか」


侑士に突っ込まれる前にこの話題から足を洗いたかったのだけれど、私の頭は他の適当な話題を見つけられなくて。
さっきまでうなされていた高熱で、脳みそのどこかが溶けてしまったのかもしれない。
話を逸らしたいのに言葉が出てこなくて、私は今さら見るところもない自分の部屋のあちこちに、情けなく視線を彷徨わせる。

少しでも居心地のいいポジションを探して、ベッドの中をもそもそと動いた。
当たり前だけれど居心地はまったく改善されることなく、時間だけが着々と過ぎる。
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