第18章 ホットミルク〔不二周助〕
僕の隣、一回り小さなマグカップでホットミルクを飲む渚。
渚は、何があったのかなんて、無理に聞き出そうとはしない。
僕も僕で、理由を話すこともあれば話さないこともある。
でも、飲み干す頃には必ず気持ちが落ち着いて、元気になっているんだ。
これって結構、すごいことだと思うんだけど。
「かわいいカップでしょ、それ。最近、寝る前にホットミルク飲むとき使ってるの」
「うん、初めて見た。おしゃれな柄だね」
食器棚に他にもたくさんあるマグカップの中から、元気の出そうな色遣いのものを選んでくれたんだろう。
両手で包み込むと、じんわりとあたたかかった。
ほのかに甘いホットミルクと渚は、僕のささくれた心を優しく撫でてくれる。
少し前、お互い忙しくて会えなかったときに珍しく弱気になって、初めて自分でホットミルクを作ってみた。
レンジでもよかったんだけど、渚がやっていたみたいに、小鍋で火にかけて。
でも、どうしても同じ味にならなかった。
砂糖を入れてみても、二杯目にははちみつを入れてみたけど、だめだった。
何が違うのって聞かれても困ってしまうけど、何かが違ったんだ。
結局、皮肉にも会えない淋しさが募ってしまって、そのあと久しぶりに会えたときは、時間を取り戻すみたいにずっと抱き合っていたっけ。
「ねえ、牛乳と砂糖の他に、何が入ってるの? この前自分で再現しようとしたんだけど、どうしてもできなくてね…」
「え? ああ、隠し味が入ってるの」
「なんだろ。教えてよ」
「ふふ、私の愛が入ってるんだよ」