第18章 ホットミルク〔不二周助〕
*社会人設定
ことん、と微かな音を立ててテーブルに置かれたのは、ふわふわと湯気を立てるホットミルクだった。
朝だけコーヒー、他のときは頑なに紅茶ばかりを飲む僕が、このときばかりはおとなしく、ホットミルクに口をつける。
ころんと丸っこくて重量感のあるマグカップには、北欧らしいカラフルな柄が描かれていた。
僕が紅茶好きなのを渚はもちろん知っていて、普段は黙っていても紅茶が出てくる。
コーヒーカップよりも、空気に触れるように浅く平たいティーカップ。
僕が好きな華奢なつくりのアンティークのカップを、渚はあちこちのインテリアショップで発掘してきては、ボーナスが出るたびに一脚ずつ買い足している。
食器棚に整然と並べられていくコレクションを見ていると、紅茶が僕たち二人の共通の趣味になっていってるのがわかって、嬉しくなる。
一緒に過ごした時間の長さを一目で実感できる、僕にとっても大事な宝物だ。
こうやってホットミルクが出てくるのは、僕が落ち込んでいるとき。
僕は落ち込んでるなんて一言も言っていないし、そういう気分の変遷みたいなものをあからさまに出すのは得意じゃないし、よほどのことがない限りそもそも出すべきではないと思っているのに。
僕の雰囲気からなのか、それともいわゆる女の勘ってやつなのか。
とにかく僕の気持ちを誰よりも、いや、僕自身よりもよっぽど敏感に察知する渚は、純粋にすごいと思う。
今日だってホットミルクを出されるまでは、落ち込んでいる自覚なんてこれっぽっちもなかったんだから。
「…おいしい」
「そう? よかった」