第17章 ゲーム・オーバー〔切原赤也〕
テニスコートを避けるように学校を出た。
まっすぐ家に帰る気にはどうしてもなれなくてしばらくふらふらしたあと、自然と足が向いた先は、昨日も来たはずのゲームセンター。
このむしゃくしゃを何かにぶつけたくて、迷わず格ゲーを選ぶ。
昨日も座った台に腰掛けると、昨日のことをまた思い出してしまって、そんな自分にうんざりして。
切原は「減るもんじゃない」と言っていたけれど、本当にその通りだと思う。
こんなにも悲しいのに、みじめなのに、こんなにも好きが膨らんでいる。
一昨日より昨日、昨日より今日の方が、ずっとずっと好きだ。
もうゲームオーバーだというのに、我ながら諦めが悪い。
切原のことばかり考えてしまう頭をぶんぶんと振って、台に百円玉を入れる。
ちゃりん、と音がして、ゲームが始まった。
昨日の対戦モードではなくて、一人でステージをクリアしていくモードを選ぶ。
お気に入りのイケメンキャラを操って、襲いかかってくる敵をばさばさとなぎ倒していく。
効果音が気持ちよくて、画面さえ見ていれば何も考えなくてよくて、やっぱり格ゲーにして正解だった。
途中、鞄の中で携帯が何度も鳴っていたけれど、ステージが佳境で手が離せなかったから全部無視した。
どれくらい時間が経ったのか、結局一度も死なずに全部クリアする偉業を二回達成して、ディスプレイにはエンディングが流れていた。
ものすごく集中していたらしくて、さっきまでのイライラはかなりすっきりしている。
そろそろ帰ろう。
席を立とうとした瞬間、ぐいと右肩を掴まれた。
「おい!」
「ッ?!」
強引に振り返らされたと思ったら、目の前には切原がいて。
びっくりしすぎて、声にならない声が出た。
少し息が上がっていて、汗までかいている。
なんでここにいるの。
なんでそんなに必死な顔してるの。
そんなに走り足りなかったなら、もっと部活で頑張ればよかったのに。