第5章 きみへ
それから一週間が経ち、俺は机の上で顔をしかめていた。
「どうされたんです?」
部下の池田が聞いてきた。
「…………なんでもねぇよ」
「何でもなくないでしょ、後藤くん。あなたここ最近しかめっつらよ。見てる方が不愉快だわ。」
前の席の湯川が言った。俺は言うのを躊躇ったが、
「…………伊月が………………伊月がおかしいんだよ」
湯川の眼光にいつものように耐えられなかった。
「伊月ちゃんが?」
「ああ。」
「帰りが遅いとか?」
「いいや。」
「溜息ばかりつくとか?」
「いいや。」
「持ち物が汚れてたり傷ついたりしてるとか?」
「いいや」
「じゃあ、なんなのよ!」
「…………携帯ばかり触ってる………俺の顔を見ない」
湯川と池田は顔を合わせた。
「どこが問題なのよ?」
「どこが問題なのですか?」
はぁ!?
「そんなの年頃の女の子なら当たり前よ?大方好きな子でもできたんじゃない」
「年頃の女の子なんですからそうなるのも当たり前ですよ。課長なんて三年くらいまともに娘さんと口聞いてないそうですよ?」
…………………す、好きな子?
「なんて顔してんのよ。伊月ちゃんを取られたみたいで悲しいのは分かるけど。伊月ちゃんとはいつかは別れは来るもんよ。」
…………わ、別れ…………………
俺の頭の中に描いたのは他とも誰ともわからない男と伊月が笑い合って、どこかへ行くところだった。