第2章 トンネルの向こう
「さぁ、ここへお入り。」
そこは障子で仕切られた小さな部屋
真ん中に丸いちゃぶ台があって座布団が数枚置いてある
コクリと頷いてそっと靴を脱ぎ部屋へ入った
「今お茶を入れるから。」
そう言うと部屋の隅に備え付けられた台所のような所で手際よくお茶の準備を始めた
あたしはただお茶を入れているだけなのに様になる彼の姿をぼんやり眺めて座布団に座る
さっきから引かない頭痛
……
ーズキン
何かを思い出そうとすると頭のこめかみ辺りが更に激しく痛む
そんなあたしに湯呑みを手渡す
「さ、これをお飲み。」
頭が痛むのを隠し、出されたお茶を飲んだ
ホッとする
「……………」
あたしはあることに気付いた
頭痛が無い
このお茶を飲んだらズキズキと疼くような頭の痛みが驚くほどに引いていったのだった
それを知ってか知らずか、驚くを見てフっと口角を上げ話し始める
「では、落ち着いたところで本題へ入ろう。
そなたはここへ迷い込んで来た。
それを湯婆婆様が助け、そして記憶の無いそなたをここで面倒見ると言っている。
しかしここでは働かない者は皆 石や石炭あるいは豚にされてしまうのだ。
だからそなたには今日からこの油屋で働いてもらう事になった。」
「………」
ここに、迷い込んで来た…あたしが?
何故ここへ来たの
何も思い出せない
そうか…
それであのお婆さんが助けてくれたんだ
「と、まぁ突然こんな事を言われても受け入れるには時間も必要だろう。
今日はひとまずここに居なさい。
この部屋は空き部屋だからね。
必要な物はわたしが揃える、食事も衣服も…
明日から少しずつ覚えればいい。」
そう言うと少年はあたしの頬をフワッと撫でた
……暖かくて優しい手
あたしはこの手を知っているような気がした
だけど記憶を辿ると目が眩む
先程のあの頭痛は無いにしろやはり記憶を呼び起こす行動を取ると何かしら身体が反応してしまう
「わたしの名前ハクだ。
…」
ハク…
あたしは何か言いたげな彼の顔をただ見つめる事しか出来なかった