第2章 トンネルの向こう
目が覚めるとあたしの目の前には決して同じ人間とは思えないほど頭の大きなお婆さんがいてタバコを吸いながらこちらをジッと眺めていた
「…ぅわっ、」
驚きのあまり変な声が出る
「あははははははは…
やっと目が覚めたかい。」
豪快な笑い声と共に口だけではなく鼻からも大量の煙が溢れ出た
「お前、歳はいくつだい。」
「え、」
「だから歳はいくつだと聞いてるんだ。
もう焦れったいねぇ‼︎」
自分の置かれた状況に頭が追いつかず戸惑うあたしに苛立ったのかお婆さんはバンっとテーブルを叩く
「…18、です。」
「18歳…まだ少し若いね。
まぁいい、ここはね…八百万の神が疲れを癒しに訪れるお湯屋なんだよ。
そしてお前はこのアタシの『油屋』で働くんだ。わかったね。」
「………はい?」
もうわけがわからなかった
目が覚めたら頭の大きなお婆さんがいてなんの説明もなく油屋で働けと言われ…
混乱するあたしをよそにお婆さんは何やら指先をクイッと曲げる
するとシュルシュルと紙とペンが動き出した
「お前がここへ来たのには理由がある、が…それを一から説明してやるほどアタシは暇じゃないんでね。
それに説明しても記憶を奪うんだから必要ないさ。
アタシのために働きな。
なぁに、悪いようにはしない…お前は特別な子だからね。」
-ヒュンッ
そう言い終えるとパァっと明るい光があたしの頭を突き抜けた
「…ッ‼︎‼︎」
コロコロと転がる光の玉を湯婆婆が拾う
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「契約書だよ。ここにサインしな。」
「…はい。」
「、いいね?しっかり働くんだ。」
頭が重い…
それに少し目眩がする
「湯婆婆様、戻りました。」
「ハクかい、この娘はだ。
今日からここで働くよ。面倒見な。」
声の方へ視線を向けると、オカッパ頭の少年が立っていた
「はい、湯婆婆様。
それでは、来なさい。」
言われるがままあたしはその人の後を追う
どうしてあたしはここにいるのだろう
何も思い出せない