第2章 トンネルの向こう
湯婆婆によって記憶を消され、そしてそれを思い出す事すら出来ないようにまじないをかけられた少女を心底哀れに思った
湯婆婆がいったい彼女の何を利用しようとしているのかはわからない
少女がこの世界へ迷いこんで来たときの姿を思い返す
目を閉じ、全てを身体で感じ取るように耳を澄ませ風を受けていたその姿を心から美しいと思った
姿は見えないように隠していたが思わずその頬に触れてしまったほど…
こんな衝動に駆られたのは初めてで自分で自分の行動が理解出来なかった
そしてその少女は今目の前でひどく怯えながら頭が痛むのをバレ無いよう下を向き必死に耐えている
少しでも楽に出来ないだろうかと思いついたのはまじないを込めたお茶を飲ませる事
さすがに湯婆婆の強い魔法を消す事は出来ないが楽にしてやることは出来るはず
差し出したお茶を飲み干し徐々に消える痛みに驚いたような顔をしてこちらを見るの顔が可笑しくて愛らしく、少し幼く見えてしまい耐えきれず笑みを溢してしまった
…………………
あの頃の、まだ子供だったわたしには理解出来なかったこの感情
幼さゆえの初恋、しかし千尋との間にはもっと違う深いものを感じていた
共に進み助け合った同志…わたしの最愛なる友
そう、それがしっくりくる
千尋、そなたがいればこの想いを打ち明ける事が出来たのに…
「………………」
目の前の少女を見つめる
そしてそっと頬に触れてみた
大きな瞳に今にも溢れ落ちそうな涙
わたしはこの少女を守りたい
今ならわかる
この想いがなんなのか
あの草原で一目見たときからずっと…
「………………………」