第1章 恋愛至上主義者なんて、マゾヒスティックでしかない。
突然のことに驚き、翔悟に抱きついて、
『な、なに??』
ゆっくりと周りの視線の先を見る。
「新任教師。だと」
頭の上から翔悟の声が降ってきて、舞台へと目向ける。
黒いスーツに白のカッターシャツ。
爽やかなグリーンのネクタイに短い髪の毛は嫌味のない感じにセットされ、少し緊張した面持ちでマイクの前に立つ人に、
私の心臓が早鐘をうった。
「…………若ぇなぁ……」
『………………………』
「じゆ?」
『………………………』
翔悟の呼びかけにも気づかない。
掴んでいたはずの翔悟のシャツを離し、
ただ、一点だけを見ていた。
「おい?」
ポンッと頭を叩かれて、
ハッとして翔悟のほうを見た。
『ねぇ。一目惚れって、信じる?』
自分の口から出た言葉に自分自身驚きながら、
また、ゆっくりと視線をその男性教師へと戻す。
「何言ってんだよ?」
『しっ!!静かに!』
正面を向いたまま翔悟の言葉を手で制し、
あの人の声に意識を集中する。
「神永 龍太です。
まだ、大学を卒業したばかりでまだまだ未熟者ですが、
皆さんと楽しい毎日を一緒に過ごしたいと思っています。
よろしくお願いします!」
最後にニコリと微笑むと、
再び体育館が甲高い悲鳴で揺れた。
ただ私は、その嘘の笑顔もまた素敵だなんて思ってしまう。
「……爽やかだねぇ」
隣で翔悟の呟いた嫌味でさえも納得してしまうほどの、
胡散臭い笑顔だった。