第1章 恋愛至上主義者なんて、マゾヒスティックでしかない。
「樹、ちょっといい?」
教室の入口で知らない男子生徒に名前を呼ばれた。
『ん?………沙絵、だれ?』
沙絵に小声で確認してみるも、首を横に振られるだけだった。
翔悟を見ても、無言で相手を見ていた。
「…………」
ゆっくりと席を立ち、入口へと向かう。
『樹ですけど、なにか?』
ネクタイの色を見て1つ学年が上だとわかる。
名前は………わからない。
「ちょっと……いい?」
さっきと同じ言葉を繰り返し、私の手を取りどこかへと歩き出した。
「よくねぇ」
翔悟の声と軽い衝動が私の手に走る。
「あっ…」
先輩に掴まれた手が翔悟のチョップで、離された。
「なにすんだ……ょ…」
突然の事に先輩が翔悟に掴みかかろうとして、
固まった。
「んだよ?」
ドスの効いた声で先輩を牽制した翔悟に、
何も言わず先輩は立ち去っていった。