第2章 動き出した歯車
入隊式への参加すら認められず、私は卯ノ花隊長の計らいで四番隊の執務室で業務を手伝っていた。
手持ち無沙汰にならないように、と言う隊長からの心遣いに感謝て黙々と書類を仕分けていた。
支給された隊服に袖を通した私がしれっと業務に混ざっていると、式典へ参加していない隊士の人達は驚いた顔をするものの「おかえり」と言ってくれた。
「ただいま戻りました」
ちょうど業務も一段落付き、入隊式祝いにと銀嶺さんから差し入れられたお饅頭とお茶で一服していると卯ノ花隊長が戻ってきた。
「おかえりなさい」
「えぇ。
仄、その甘味は?」
「朽木隊長からお祝いにといただきました。朽木副隊長、ずいぶん窶れていらっしゃいましたが」
「あの部隊も大変なようですね……」
隊長から指示や資料を受けた隊士達が執務室を後にし、私と卯ノ花隊長だけが残された。
「……………」
「……………」
この人との沈黙は日常的によく訪れるので苦ではない、どちらかと言うと心地のよい沈黙だ。
しかし、今日の沈黙はなんだか重苦しく感じた。
「あ、あの……」
「貴方の配属先が決まりました」
口に残っていた饅頭の甘みをお茶で流し込み、私が声を出すのとほぼ同時に卯ノ花隊長がそう言った。
「は、配属先ですか? このまま……」
『四番隊に配属になるものだと思っていた』、そう続けようと顔を上げると卯ノ花隊長の真剣な眼差しに息を飲んだ。
「……貴方は十三番隊へ配属となりました」
「じゅ、十三番隊ですか?」
素っ頓狂な声が出た。
十三番隊と言えば、月一の問診をよくすっぽかしていた浮竹さんが隊長を務めていたはず……。
「十三番隊と言うと、浮竹隊長のいらっしゃる……」
「ええ、貴方には浮竹隊長専属の治癒隊士として活動してもらいます」
「せ、専属ですか?」
自慢ではないが学院での成績は常にトップだった。
その事から、四番隊か五番隊辺りかな? などと勝手に予想していたのだが。
「あの方はいつまで経っても定期健診を自ら受けに来る様子もなければ、素振りすら見せませんから。
もういっそ専属を付けてしまおうかと……」
ニッコリと笑った隊長の笑顔に冷や汗が背中を伝う。
「つまり、私は見張り役って事ですか」
私の問に隊長は曖昧な笑顔で『さぁ、どうでしょうね?』と答えた。