第1章 伝説の始まり
気が付けばトントン拍子に話は進み、私は卯ノ花さんどころか四番隊の隊員の人にも挨拶ができないまま統学院の寮に入ることになってしまった。
私に割り当てられた部屋はひとり部屋で、南の角部屋だった。
机とベッドしかない閑散とした部屋で、私はベッドに座り彼岸花を抱きしめて四番隊のみんなを思い出していたら、
行ってきますの挨拶ちゃんと出来なかった…。
清之助、挨拶にうるさいから小言言われるかな…。
卯ノ花さんも怒こってないかな……。
みんなも…。
『会いたいよ…。』
流魂街に住んでいれば永遠に感じることのなかった『寂しい』と言う感情が、押し寄せてきて無意識に彼岸花を抱く腕に力を込めた。
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いつの間に眠っていたんだろう。
私は眠い目を擦りながら、あたりを見回すが見慣れない花畑にいた。
「統学院…じゃ、ない。」
「やっと会えた…」
辺りを見回していると、不意に後ろから声が聞こえた。
「…あなた誰。」
振り返ると、見慣れない男が立っていた。
男は赤い髪に所々黒や白い色が混じり、おへそが丸見えの服を着ていた。
無意識に背中に背負った刀に手を伸ばすが、手は空を切る。
「!?」
彼岸花がない…。
一気に不安が押し寄せてきて、背中を冷や汗がつたった。
「そんなに怖がらないで…僕、寂しいよ。」
そう言って寂しそうに微笑んだ男は、私の方に歩み寄ってきた。
男は私の目の前に立つと、突然私を抱きしめた。
「っっ!?」
「怯えないで…ずっとこうしたかったんだ。今まで僕は何もして挙げれなかったから…」
男のぬくもりに覚えがあった。
何でだろう…
「なんか…安心する…。」
「ふふふ、僕はちょっと緊張してる。そっか…仄はこんなに小さかったんだね。いつも抱きしめられてる方だから知らなかった…。」
「え?」
「ふふふ。不思議そうだね?」
「…私達どこかで会った?」
真っ直ぐに疑問をぶつける私に、男は微笑むと顔を近付けた。
コツリとおでこがくっ付くと、男は真っ直ぐ私の瞳を覗き込んだ。
「ほんとに分からない?」
白銀の瞳を見つめ返すと、なんだが見覚えがあった。
「もしかして、彼岸花?」