第1章 伝説の始まり
「仄、明日から軌道の稽古を始めます。」
隊首会から一ヶ月程経った頃、執務室で卯ノ花さんに出された読み書きの課題をしていると卯ノ花さんがそう言った、
「軌道?」
「あなたの場合、霊力の出る量がおおいのでまずそこから身につけないと危ないですし、何より霊力を抑える術を学ばないと統学院への編入は認めてもらえませんから。」
「編入手続き終わったんですか。」
「と、統学院?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「死神になる為の学校です。」
「死神…」
死神になるという事はあんな化物とまた…。
そう考えると顔から血の気が引いていく。
「嫌なら受けなくてもいいんです、死神にならず流魂街に戻ると言う手もあります。実際、貴方はずいぶん読み書きをできるようになりましたし、それなりの職に就けるはずです。
ただ…死神にならないのならば、その斬魄刀を返していただかなくてはなりません。」
「い、いやだ!!」
この子は、あの地獄で私を支えてくれた、たった一人の家族だ。
「…死神になったら、彼岸花と別れなくていいの?」
私の中のずっとずっと奥の方にある何かの記憶が、家族と離れたくないと強く訴えかける。
「えぇ、死がふたりを分かつまで…」
「…私、死神になる。」
「では、明日からお稽古を始めましょう。」
私がそう言うと卯ノ花さんはニッコリと微笑んで言った。
「あ、あの。卯ノ花さん……」
「どうしましたか?」
「こ、今度夜一さんのお家に遊びに行くお約束したのですが……。
その日はお稽古お休みしてもいいですが?」
それはまるで子供が母親に何か申し出をするときのような、くすぐったい空気にそばに居た清之助は微笑んでいた。
あの張り詰めた表情で大人達を見つめ、隙を見せれば今にも飛びかかってきそうな少女が歳相応に友人の家に行く為の許可を大人に求めている。
(……人は変わるもんだなぁ)
なんて思いながら二人の会話に書類に目を通しながら耳を傾けていた。