第3章 記憶
茶色の外套を着たその男は、
「お目覚めかい?」
と、ボブカットの人に話しかけた。
二人はなにやらひそひそと話をし始める。
二人はいったい何を話しているんだろう。
二人は私が誰なのかを知っているのだろうか。
しばらくすると、二人は話を止めて、男の方が私に話しかけてきた。
「君が目覚めて本当によかったよ…。いや、君本当に衰弱しきってて、助からないかと心配したけど…。私の名前は太宰だ。君をあそこにいる与謝野先生の所につれていったのはこの私なんだけど…覚えてないかい?」
「そういえば、茶色の外套を着た男の人が話しかけてくれたような…。」
「そうそう、それが私。」
なんだかこの人は苦手だ…。私はそう思った。
明るい声をつくって、ニコニコしていていい人そうに思ったが、目が笑っていない。言葉にもどこかひんやりとしたものを感じる。
まるでなにかを探っているかのような…。私のなにかを疑っているかのような…。そんな気がしてならなかった。