第1章 バルバッド編
「あの」
赤い髪とツリ目が特徴的な少女がふと疑問に思ったのか、質問した。幼いとはいえ並外れた力を持つ少女の種族の名はファナリス。現在この世界でもっとも希少であり、優れた身体能力に恵まれている。現在この場にファナリスは少女モルジアナの他に、体格の良い男のマスルールが居た。ジャーファルと同じく、彼もまたシンドバッドの付き人なのだ。
「国民が支持しているのであれば、霧の団を捕まえることは正しいことなのでしょうか?」
素朴な疑問。本当に、ただ純粋に思った事なのだろう。彼女の目は何を探るでもなく、好奇心にありふれた、触れただけで砕け散ってしまいそうなほどに幼く真っ白な子どものそれである。
難しい質問だ。確かに霧の団のやっていることは紛うことなき犯罪である。犯罪者は捕えなけらばならない。しかし、彼らは犯罪者であると同時に貧しい民衆達の英雄だ。金に汚い貴族から強奪しては、金を分け与えている。もしシンドバッド等国軍が霧の団を捕まえれば、民衆の不満は確実に現国王に向かうだろう。
「俺は正しいと思っている」
皆が沈黙するそんな中、シンドバッドが口を開いた。
「彼らは奪った金を市民にばらまき、支持を得ている。故に儀族と呼ばれるわけだ。だが俺は考える。それは犯罪を自己正当化する為の行為。あるいはただのプロパガンダでは?とかね」
シンドバッドがチラリとアンジュを見た。その目はアンジュに答えを聞いているようで、肯定して欲しそうだった。しかしアンジュは視線を外すでも無く、肯定するわけでもなく、ただ目を細めて笑った。
母のような温かみと、悲しみ。成長した姿を見て、色々と悟ったのだろうか、そっと目を伏せた。
シンドバッドも少し驚いたような顔をしたが、また話に戻る。アンジュの真意を捕らえれたのかどうかはわからないが、肯定してもらえなかったことは感じ取ったようだ。
「確かに霧の団を捕まえれば民衆の不満は国王に行くやろな…でも、野放しにしとったらますます貿易が出来んくなる。そしたら国民の食べ物とかどないするん?…って考えたら、まぁ捕まえるのが正しいのかどうか…正直難しいよな」
アンジュの言葉に、モルジアナやアラジンは考えているようだ。最善の道は何なのだろうかと。