第1章 出会い
城主は声を上げて笑った。
「まさか、王ドロボウがこんな子供とはのぅ。この娘といい、まんまと騙されおって! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことじゃ! ……ひっ捕らえろ!!」
ふたりの警備兵が少年に槍を向けて突進していく。
「ジン、ここでキールロワイヤルはムリだぞ。唯ちゃんに当たっちまう」
「わかってる」
ジンと呼ばれた少年が軽く腕を上げると、コートの袖から勢い良く短剣が飛び出した。
そんなことをしている間に、ふたつの槍がジンの間近まで迫っていた。
「危ない!!」
思わず唯は叫ぶ。
だがジンは槍の先が胸に入る寸前、上に跳んだ。
そのままひとりの警備兵の頭を蹴り倒しながら優雅に着地する。
残った警備兵がジンの背後を狙う。
ジンはそちらに振り向く勢いでもって、迫っていた槍を短剣で薙ぎ払った。
金属同士がぶつかる高い音が辺りに響く。
警備兵が崩れたバランスを直す前に、ジンの蹴りがまともに鳩尾に入る。
背中を石壁に強打して、その警備兵は前のめりに倒れていった。
ジンは何事も無かったように剣を元に戻す。
(か、かっこいい……!)
唯はその一瞬の出来事を瞬きせずに見入っていた。
そんな唯とは対照的に、城主は真っ青になって腰を抜かしていた。
「さて、じいさん。お宝を出してもらおうか」
ジンがそう言いながら近寄ると、城主は牢屋に背中が着くまで後退った。
「た、宝などない! 本当じゃ、ワシは知らんのじゃ! ……そ、そうじゃ、この城で一番大きな宝石をやろう!!」
「あのねぇ、じいさん。予告したのは『ジパングの宝』よ。ただ大きいだけの宝石なんてこっちは興味ないわけ!」
キールが呆れたように言う。
「だからワシは知らんと言っておるじゃろう、ジ、ジパングのお宝など……」
「……その子を出すんだ」
ジンが静かに言った。
城主は「?」という顔でジンを見上げる。
「唯ちゃんを出せって言ってんだ!」
キールが怒鳴ると、城主は慌てて腰に掛けた鍵を手に取った。
ジンはそれをぱっと取り上げて、唯のいる牢屋の鍵を素早く外した。
そのまま少し腰を曲げ、彼は牢屋の中に入ってきた。