第4章 君は大事な…
「ごめんね。迷惑かけて」
「唯っそれは言わない約束だろう~!」
キールがどこかで聞いたような芝居がかったセリフを言うものだから唯はクスクスと笑った。
「ジンは?」
「あぁ、アイツなら今下の食堂行ってるよ。すぐ戻ってくるぜ。きっと」
「そう……」
「あ~ぁ、本当は唯ちゃんの熱診たいけど、肩以外触るなってアイツ煩いからよ~」
キールが悔しそうに腕を組む。
その言葉にピクリと反応して唯は思い切って口を開いた。
「ねぇ、キール」
「ん?」
「……ジンて、私の事どう思ってるのかな?」
「へ?」
いつかの会話のようにキールがキョトンと訊き返す。
「やっぱり私って、ジンにとったらただの“大事なお宝”……なのかな」
「唯、ちゃん?」
唯の自嘲気味な言い方にキールの声が酷く戸惑ったものに変わる。
「だから、ジンはあんなに優しいのかな?」
ぽろぽろと出てくる言葉は、最近ずっと一人で考えていたこと。
「最近ダメなの。私、そんなことばっかり考えちゃってて……寝不足で、こんなふうに迷惑掛けちゃって……」
ジンに言えないことをキールにぶつけても、キールが困るだけなのに……。
なのに止まらない。
「“大事なお宝”でも、お荷物になっちゃたら……ジンも他のお宝に夢中になっちゃうよね」
「唯ちゃ……!?」
熱のせいだったのかもしれない。
いつの間にか涙が零れてしまっていた。
キールが今どんな顔をしているのか、目が霞んで良く見えない。
それでも唯は続ける。
「普通の女の子として出逢っていたら良かったのかな……」
でも、もしそうだったら……きっとこんなふうに一緒にいてくれることはなかっただろう。
……でも……。
「“大事なお宝”なんて、イヤだよぉ……っ」
最後は嗚咽に変わってしまった。
キールの困り果てたような雰囲気が伝わってきて激しく自己嫌悪する。
と、その時だった。
「キール、唯目覚ました……か」
ドアが開いてジンが部屋に入ってきた。
その瞳が唯を捉えて大きく見開かれていく。
――突然で、涙を止めるヒマもなかった。