第4章 君は大事な…
――とある名もない道で、唯は思い切って口を開いた。
「ねぇ、キール」
「ん? 何、唯ちゃん」
肩に留まっていたキールがこちらを向く。
「ジンとさ、結構前からこんなふうに旅してるんでしょ?」
「そうさ。ま、アイツはオレがいないと何も出来ないガキだからな」
言われている当のジンは少し先を鼻歌まじりに歩いている。
唯はそんなジンの背中を見つめながら、
「ジンて……さ」
声を潜めて訊く。
「こ、恋人とかいないの?」
「へ?」
キョトと一瞬停止するキール。
だがすぐに盛大に吹き出し、
「いないいない。あんなガキ誰が相手にするっての!!」
大笑いしながら言った。
「そう……」
「でも唯ちゃん、そんなこと訊いてどうするの?」
逆に訊かれてギクリとする。
「え? あ、いや、」
「あぁ~!!」
肩から離れ、キールは真剣な顔で唯の間近まで迫る。
「もしかして唯ちゃん、アイツの事……!?」
「ばっばか! 違うわよ!!」
唯は目の前のキールの嘴を両手でガシっと掴み、必死に弁解する。
「旅してたらやっぱり色んな人に会うじゃない! だからふとそう思っただけ! それだけ!!」
だがその顔は真っ赤になっていた。……と、
「なんの話?」
ひょいとジンがふたりの真横に現れた。
「きゃぁ!!?」
唯はびっくりして思わず悲鳴を上げる。
「……きゃあ?」
ジンは、自分から距離を開けた唯を不思議そうに見る。
「――な、なんでもないの! ねっ、キール!」
キールは掴まれていた嘴を摩りながら、もう一度唯の肩に降り立つ。
「そうそう! オレと唯ちゃんの秘密よ、ヒ・ミ・ツ!」
そしてジンに向って「ベ」と舌を出した。
「ふーん」
ジンは特に気にするふうでもなく、すぐに背を向けまたひとり先を行った。
はぁと息をつく唯。
「唯ちゃん、あんなヤツよかオレの方がいい男だぜ~?」
「だから、違うってば!」
肩の上でカッコつけるキールに向かって唯はまたしても真っ赤になって怒鳴った。