第1章 前編
「あの、すみません……」
「はい。何の御用でしょうか」
入ってすぐにいた受付嬢にユメは緊張しながら声を掛けた。
するとその女性は笑顔で答えてくれた。
とても優しい人に思えた。――が、
「えっと、私、ユメと言います。トラ……社長に会いにきたのですが」
言った途端、彼女の顔が豹変した。
「社長は今日非常にお忙しく、誰にもお会いになりません」
そう厳しく言われてしまった。表情がかなり冷たい。
「え、でも、受付に言えばすぐに来てくれると言われて……」
「トランクス社長に直接バースデープレゼントを渡そうと思われても無駄です。本日、もう何人も丁重にお断りさせていただいておりますので。どうぞお帰り下さい」
スラスラと、慣れた口調で言う受付嬢。
本当に今までに何人もの来訪者にそう言って断ってきたのだろうとわかる。
ここで『私は社長の恋人です』と言っても、信じてはくれなさそうだ。
というか、ユメには信じてもらえる自信がなかった。
こんな平凡な女がトランクスの彼女だなんて、きっと誰も信じてはくれないだろう。
ヤバイ……へこんできた……。
でも、帰るわけにはいかない。
「でも、あのっ……」
「そこのあなた、こっちに来なさいよ」
ユメが再び受付嬢に口を開けかけたとき、背後から何者かに話しかけられた。
振り返るとそこには5人くらいの女性が同じように手にプレゼントを持って立っていた。
「その女に言ったって無駄よ。プレゼント渡したかったらトランクス社長が出てくるまでこっちで一緒に待っていましょう」
そのうちの一人が強い口調で言いながらユメの手を引っ張った。
「あなた達、帰れと言っているでしょう!」
受付嬢は相当頭に来ているようだ。
……一体この人たちはいつからここで待っているのだろうか。
「あぁ、早くトランクス社長出てこないかしら~」
「早くこのプレゼント受け取って欲しいわぁ!」
「ねぇ聞いて、この間ねトランクス様と目があったのよ、私!」
トランクスのファンだという彼女たちは、会社のエントランスの隅っこの方に固まり彼の話題で盛り上がっている。
はぁ……何で私こんなトコにいるんだろう……。