第5章 東条家とゲヴァルト
床に落ちる金属音とゲヴァルトが発生させる微量の風で、ある一室が包まれていた。
「う…」
莉子の武器が莉子のゲヴァルトの力により床の上で踊っている。
「ふんっ…!」
武器の動きが増す。
「よっ!…」
ようやく莉子の手に収まった。
「やったぁ…」
「時間掛かりすぎ。次は…」
「次はないよ…もう今日は終わり!」
千秋の言葉を遮るように莉子はため息をつきながら片付けようとしていた。
「莉子お前な…」
「あたしのゲヴァルトは武器召喚(ソードサモンズ)、物を移動させるゲヴァルトじゃないんだから。あたしの場合、実践あるのみ。大体やりすぎも良くないと思うんだけど」
武器を念入りにチェックする莉子の横で千秋は呆れながらため息をついた。
莉子は武器と呼んでいる普段背負っているソードヴォイドをゲヴァルトの力で召喚させるように変化させるゲヴァルトを使う。
「基礎として武器と一つになるのも大事だろ。これぐらい当然…」
「莉子ちゃんの言う通り。やりすぎはようないで」
千秋の言葉を関西弁で遮ったのは、ショートヘアで少し背の高い千秋の姉、紺野千弦(ちづる)。
「千弦さん!帰ってきてたの?」
「そうやの。ちょいと東京の方に用があってな」
千弦は紺野家の長女で、日本に2つしかないゲヴァルト研究センターの大阪研究所に勤務しており、時折東京にある自宅に帰ってくる。その為関西弁で喋ったりしている。
「えっと…資料は確かここら辺なんやけど…」
この部屋は紺野家の特訓室。ゲヴァルト発動の練習や訓練するための部屋でゲヴァルトについての資料も沢山置いてある。資料が置いてある棚を千弦はひたすら探す。
「来るなら一言言えばいいのに」
千秋は千弦に告げる。
「どないせ今日の夜深夜バスで帰らなあかんから…あった!」
棚の上の方にある資料を手にして部屋を立ち去ろうとする。
「あ、千秋」
扉の前で千弦は千秋に言った。
「莉子ちゃんの指導、ほどほどにしとき」
「うっせ」
「ほな莉子ちゃん、またな!」
そう千弦は告げると部屋を後にした。
「ほどほどにしとき、だって」
「うるせーよ」
莉子の頭に拳を落とした。
「いったぁ…」