第5章 東条家とゲヴァルト
「千秋ー莉子ちゃーん、特訓終わった?」
地下室をそっと覗きながら言ったのは紺野家の母、志紀(しき)。
「はい!終わりました!」
「ったく…」
志紀は時々莉子の世話もしている。5人の子のうち4人が男だからだろう。
「莉子ちゃん、梓巴ちゃんはもうおうちに帰ってるの?」
「多分…いると思うけど?」
「うちで食べていきなさい。ご両親まだ帰ってきてないんでしょう?」
東条家の父は出張が頻繁にあり、母が海外旅行好きなのでいつの間にか莉子と妹のと二人きりになったりする。そのこともあって紺野家に世話になる回数も多い。
ちなみに梓巴もゲヴァルトマスターである。
「ありがとうございまぁす!」
莉子は満面の笑みで志紀に言った。
「じゃあちゃん呼んできなさい」
「はい!」
莉子が元気すぎる返事をしてソードヴォイドを持ち帰ろうとした時
「ちょっと待って」
「何?」
千秋に止められた。
「それ、ちょっと調整する」
「おっけ、じゃよろしく」
ソードヴォイドをケースごと千秋に向かって投げた。そして莉子は部屋を後にした。
「過保護なんだな、お前」
「千夏兄っ!?」
莉子と入れ替わりで扉の横に立っていたのは千夏。
「なんだよ、なんか用か?」
「別に用なんてない。様子見に来ただけだ」
「あっそ」
資料の入った棚をぼーっと無の感情で見ている千夏と莉子のソードヴォイドを調整する千秋の間にしばらく沈黙が続いた。
「…俺がさ…」
「…なんだ?」
先に口を開いたのは千秋だった。
「…俺がさ、莉子の面倒見てないと、またあいつ1人で暴走しちまうだろ。だから…」
「もういい」
「…」
千秋の言葉を途中で止めた千夏。
「あ、二人揃ってここにいたのか」
「兄貴」
千秋と千夏の2人を探しに千春が地下室に来た。
「もう夕食できてるぞ。早く来いよ」
「わかった」
千秋は莉子のソードヴォイドを机の上に置き入口の扉に向かう。
お前にそんな責任感があるとは…
千秋を後ろからそう思いながら見ていた千夏。
「千夏兄、扉しめっから早くしろよ」
「悪い」
千夏が部屋を出たと同時に千秋が扉を閉めた。