第1章 一話
先生の持つカゴに目を向けると、もう既に作られてるパスタと、ペットボトル数本。
「…なぁに?料理出来ないんだって思ったでしょ。」
「………。」
…そんなことは思わなかったが。どうやらそうらしい。
先生はカゴを後ろに隠す。…もう手遅れだが。
「…ご両親は帰ってないの?」
「…はい。」
俺は適当におにぎりを二個手に取る。そのままレジに行こうとしたところで止められた。
「…それでいいの?」
「……はい。」
「…小食なのね。学生なのに。」
珍しいとでも言いそうな顔。
「…ここで会ったのもあれだし、奢ってあげるわ。」
「……は?…いいです。」
「遠慮しないの。たったおにぎり2つでしょ。」
強引に割り込んで、結局奢ってもらった。
コンビニをでておにぎりが入った袋を手渡される。
「…ありがとうございます。」
「高木くんってやっぱり大人っぽいのね。」
学生ぽくないと言われる。
まあ、普通はもっと明るいか…。
「…あぁ、明日は休みね。彼女さんとデートでもするの?」
ふふっと笑う先生。
彼女がいることも知っているのか。
「…じゃあ気をつけてね。あ、あとこれあげる。」
そう言って押し付けるように渡されたのはお茶のペットボトル。
「…いいですよ。」
返そうとするが。
「…貰って頂戴。それじゃあ。」
と手を振って去っていく。
思わず見えなくなるまで先生の姿を見てしまった。
俺も自分の家に帰ろうと足を進めた。
これが、まともに会話した保健の先生との出来事だった。まさかこれから彼女とどんどん絡んでいくことになるとは、この時の俺は微塵も思わなかった…。